medi-biz contents

2つの原価計算

病院原価計算には部門別損益計算と、患者別疾病別原価計算があります。部門別損益計算はどの業態の病院でも活用できますが、患者別疾病別原価計算は急性期、そしてDPC(Diagnosis Procedure Combination)病院(包括払い方式)の病院で実施することが適当です。

部門別損益計算

部門別損益計算から説明します。

部門別損益を計算できるようになると部門別あるいは病棟別、さらには診療科別の損益が計算でき、実際の損益分析をかなり詳しく行えるようになります。

部門は大きく直接部門、補助部門、間接部門に区分します。直接部門はプロフィットセンターで外来、病棟の各部門が、補助部門は直接部門をサポートする技術部門やオペ室等が、そしてコストセンターである事務の各部門が間接部門になります。

まずは日々の会計処理において外来各科、病棟、各診療科に部門コードを付し仕訳を行うことで一次集計を行います。一次集計は直接部門、補助部門、間接部門からなる部門別の損益の計算が行われ、この時点で各部門の損益の状況を把握します。

プロフィットセンターでどれだけ利益がでているのか、コストセンターの赤字はどの程度かを把握します。そののち階梯式配賦法を使い、患者数、職員数、面積、オーダー数、麻酔種別件数、オペ件数等々30種類以上の配賦基準による配賦計算を行います。

二次集計は、間接部門のコストの直接部門と補助部門への配賦を行います。ここでは役務提供されている部門がコストセンターの赤字を負担し、結果黒字なのか赤字なのかを確認します。事務部門の業務なしに現場は動けないのは明確ですよね。

三次配賦は補助部門の直接部門への損益の配賦を行った結果、すなわち補助部門が該当する間接部門のコストを背負い、そのうえで補助部門の損益を直接部門が負担し最終的に黒字なのか赤字なのかを見る段階です。なお、混合病床の場合、特定月に通過した患者数で診療科別に損益を按分し、診療科別の損益を出します。なぜ、この外来は、そして病棟は利益がでているなか、でていないのか、また、この診療科に利益がでているのか、でていないのかを把握できます。

部門別損益計算においては、各部門の個々の費目をみて人件費のバランスや、材料費や消耗品の消費の内容が理解できますし、さらに薬剤や医療材料についても、配賦計算の正確性を担保したうえで、病院全体の損益計算書で事業内容を分析するよりもはるかに詳細に部門の課題を発見・分析できるようになります。               

我々は20以上の病院で部門別損益計算を行ってきましたが、結果としてかなり正確に損益の原因を把握できるようになることが分かります。原因が理解できれば対策も可能になり利益をコントロールすることができるようになります。

ところで患者一人の原価は、患者総数により大きく変化します。たとえば病院全体で百万円の固定費が発生したとしてそれを100人の患者数で除したとき、一人の固定費は1万円ですが、200人の患者数で除すと一人の固定費は5,000円になってしまいます。

当たり前ですが患者数が増加すればするほど一人当たりの固定費は下がるのです。そしてさらに同じ疾病が増加すればするほど、経験曲線があがりコストが下がり利益がでるといわれています。

これはとりもなおさず同じ治療を何回も繰り返していると熟練し、技術が身につき、スタッフも慣れてくるのでアクシデントやインシデントを発生させず、医療の、質が上がり結果として間違いやミスなく迅速に目標としたアウトカムを得られるため、場合によれば変動比率も低減し一人当たりの患者コストが下がるというながれです。

患者数を徐々に増やすことで医療の質を高め、高い生産性を誘導し、コストを引き下げすることができるようになります。

これは部門別損益計算を行わずとも想定できる事項ですが、部門別損益計算によりリアルにその事実や成果を把握できるという意味で部門別損益計算を行う価値がある、という理解ができます。

患者別疾病別原価計算

さらに部門別損益計算を進めると患者に関する患者別疾病別分析を行えるようになります。

患者別疾病別原価計算の実施です。患者一人ひとりの損益を出すために、まず患者に対する治療行為をレセプトデータから把握し原価マスターに飛ばすことで患者毎の直接材料費、直接経費を集計します。

さらにタイムスタディにより把握した疾患別医療従事者別の標準直接時間と時間当たりの平均人件費を使い計算した直接労務費を患者毎に集めます。最後に部門別損益計算により各病棟や各診療科を通過した入院患者の治療間接費を把握し、全てを集計して患者の疾病別原価が計算されるというロジックです。

疾患別医療従事者別の実際時間をタイムスタディにより把握し、標準時間を決定するために同じ疾患の患者のデータを数多くとるところに苦労はありますが、患者別疾病別原価計算により、どのような医療行為を行うと早期に退院できて利益がでるのか、またどのような医療行為を行うと利益がでないのかや、疾患別の損益の適正ポートフォリオが把握できるようになります。限られた設備で最も自院の得意な治療の組み合わせを決定しパフォーマンスを最大化する試みです。

もちろん病院は患者を選ぶことはできませんので、○○の疾患しか診ませんということはできません。診療拒否はできないですよね。また、患者数を増やせは一人当たりの原価は逓減し、利益が逓増的にでることは分かっていても、患者が無尽蔵に増加するわけではありません。

ただ、○○の疾患の治療は得意ですという言い方はそのまま使うことができますし、ターゲットを絞った増患を行える体制を整備することはできます。病院として原価計算や会計を知らなくても、導入していなくても得意な治療を行い、同じ経営資源で患者を増やせる病院は利益を増やせる構造があることは当たり前です。しかしその事実を原価計算や会計が裏付けているという捉え方ができるし、計画の基礎ができるのは科学的だし有益です。

病院原価計算を実施することで無駄なコストが発見される、さらには経営資源をより有効に活用するためにはどうしたらよいのかといった点から課題を整理することができるようになます。

そして原価計算があることで、経営の質が向上し、問題を発見・解決しやすくなるという結論です。

部門別損益計算や疾病別減価計算を実施することにより、自院はいくらのコストで治療をしているのか、また疾患別に対する治療は、それぞれいくらであるのかについて知ることができ、課題もより詳細に把握できます。病院原価計算の優れたところですね。

KPIとともに実践的活用を

上記は、病院原価計算に対するほんの一部の考え方です。管理会計に属する病院原価計算を理解し行動の規範とすることやKPIと併せて活動のモニタリングの道具として利用することが適当です。

どのような業態の病院であっても、せめて部門別損益計算を会計制度のなかで実施し業務改革を行うことが適切です。これを専門的には「部門別損益計算を制度会計として行う」といいます。

月次決算やKPIの設定による指標管理、投資経済計算など、自社のマネジメントに活かすために作成する病院内向けの会計管理会計があり、それが集約されて財務会計になるという考え方です。

気付いたときに病院全体の決算書から一定の配賦基準を利用して、一気に各部門の損益を計算するといった大まかなやり方は雑駁すぎで課題を発見できません。

少なくとも病院原価計算のうち毎月自動的に部門別損益計算ができる体制をつくりあげ、医療の質を高めつつ多くの患者の来院を促し、厳しい時代を乗り越えることが求められています。

どの業種においも同様ですが、業務をできるだけ可視化し、課題解決に効果的に対処することで、成果をより高めていく時が来たと考えています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA