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待つ医療から出向く医療へ

「CT空いています」

先日ある病院の健診センター前で見かけたこの表示は今までにないとても斬新なものです。「心配であればいつでも撮影するので来てね」という医療側の思いを利用者に伝えるものだからです。病院は従来待つ医療を行ってきました。「患者が来院したら診察や治療を行う場」というスタンスです。しかし、メタボリックシンドロームのための特定健診やドクターズカフェで健康管理を誘導し、地域包括ケアシステムのなかで病院から在宅へというながれが生まれるなど、医療を取り巻く環境変化のなかで、幅広の保険予防活動の強化や医療の機能分化の取組みづくりが行われるようになりました。

積極的に患者や利用者に来院を促しまた外に出て、できるだけながく健康でいられるよう、またできるだけ安楽な社会生活を送れるよう地域住民に提案をする医療機関が増えてきたのです。

これはただ座して患者を待つだけではなく医療機関という社会資源を有効に活用し、どれだけ地域貢献できるかを試みる、一歩前に出た出向く医療の取組みが行われ始めたことを意味しています。待つ医療から出向く医療への転換です。「CT空いています」の投げかけもその一部であると理解しています。

 

単位当たりコスト削減のムーブメント

なお、この病院は日本でも有数の法人に属する病院の一つであり、環境変化に対応できる組織運営の見直しを行うため積極的に業務改善活動を行っています。

総務や経理、医事や用度、営繕や地域連携室、秘書課などの事務部は、各部署が業務フローを見直し無駄な業務を廃止するとともに生産性を上げることを目標としKPIを設定してそれぞれの工夫により成果を挙げているのです。例えばあるリーダーはスタッフを集め、「目的が不明なもの、他部署に提出している書類の見直しを行い、作成しても利用しないもの、利用の意味がないもの、他部署に訪問して過去からの慣習で作成しているが今は利用していないもの、意味が薄いものを廃止しよう。無駄な書類はつくらない、止める、時間を短縮する、手間を省いていこう」と話し、自らが動いて背中を見せています。

どこでもある問題で薄々分かっていながら面倒くさいし事を荒立てたくないので皆が手を付けていない領域に、リーダーが具体的に手を入れ率先して活動している凄さがあります。この病院では今までも看護部や診療支援部でのコスト削減活動が活発に行われていましたが、どちらかというと〇〇を使わない、購入しない、スペックを落とすといったコスト絶対額の削減でした。

一方、今回の事務部の活動は単位当たりコスト削減すなわち仕事の仕組みを変え、また職員の教育を行うことで仕事の質を上げ、同一資源での成果を向上させること、時間当たりの人の生産性を高めて付加価値業務に時間を割いたり人員削減を行うという本質的なコスト削減を行うものです。

「CT空いています」の表示は先駆けて健診センターが医療機器の稼働率を上げ、生産性を高め健診センターの持てる役割や機能を果たしたいという思いから生まれた改善行動であるとも考えられます。

DX化によりリーンな病院運営を

もちろん、その背景には病院のDX化があり、定型業務におけるRPA(ロボテックプロセスオートメーション)やグループウェアの活用が行わています。

事務部のこうした動きは他の部門における紙媒体での業務や無駄な作業の廃止へと続くことが予想され、他の医療機関でも徐々に浸透してきたタブレットによる患者とのやりとりについても計画しているという話がありました。

医療機関の改革やDX化は一般企業と比して遅れてはいると言われていますが、このような職員の能動的な活動こそが病院のリーン(無駄を省く)な運営を後押しします。

医療環境がどのように変化しても柔軟に対応して長く地域に残り、地域住民に高い効用を提供し続けられる病院が一つでも増えることを心から期待しています。

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